「ただいまー。」

重厚な屋敷の扉を開ければ、おかえりなさいませ、様。と、沢山の使用人たちに頭を下げられる。

そんな風にされるのに、最初こそ落ち着かないものを感じていたが、今ではもう慣れてしまった。

「ご旅行は楽しかったですか?」

側に来たメイドが人当たりのいい笑みを浮かべて、から荷物を受け取りながら言う。

「うん、ガッコの友達にもあえたし、楽しかったよ。」

荷物を手渡しながら、も笑って答えた。

ホグワーツは現在夏季長期休暇中で、その期間、は保護者代わりであるカノン=アイシスがいるアメリカへと帰省していた。

アメリカのカノンの屋敷はとにかく広い。

学友のドラコ=マルフォイの屋敷とはまた違った印象の豪邸というに相応しい屋敷だ。

そんな屋敷に住んでいるカノンは当然お金持ちと言われる部類の人種で、ついでに物好きなので、血のつながりなど一滴もあろうことないを養子に迎え入れてしまった。

そして夏休みの半ば、学校の友人に会わないか?と誘われて、4日ほどイギリスへと小旅行へ行っていたのだ。

暫くぶりにあった友人達は、身長が著しく伸びていて、ドラコはおろか、ハーマイオニーにさえ、身長が並んでしまっていた。

そのことを思い出して、は小さくため息をつく。

(いや、仕方ない。東洋人と欧米人じゃあ成長の幅がちげぇんだから・・・)

だれに言うでもなくそう言い訳めいたことを考えていると、今度は執事がのほうへ寄ってきて一礼する。

「お帰りなさいませ、様。お疲れのところ申し訳ございませんが、カノンさまがお部屋でお待ちでございます。」

「あ、カノンさんいるんだ・・。わかった、いく。」

何の仕事をしているのかは全く知らないが、なにかと多忙なカノンは、屋敷にいることが殆どない。

(カノンさん、なんの用事だろ・・・。あ、カノンさんがいるってことは、アークさんもいるかなぁ・・・)

カノンとほぼ常にといっていいほど、行動をともにしているアーク=エルフォルドに会えるかもしれないという期待に胸を膨らませて、は軽い足取りで、カノンの部屋へと向かった。



*flower Crown*[お兄様はヒットマン・お父様は黒幕]



大理石のホールをぬけて、アンティークな螺旋階段を上り、ふかふかの絨毯が敷かれた廊下を進むと、白い観音開きの扉。

金で装飾が施されたその扉の先は、この屋敷の主であるカノン=アイシスの私室である。

真っ白な扉を叩けば、コツコツと響くノックの音。

中からすぐに「どうぞ。」と返事。

「失礼します。」

返事に静かに観音開きの扉を開けて、中に入る。

大きな窓からは太陽の光が差し込んでいて、広い部屋を明るく照らしている。


カノンは部屋の黒い革張りのゆったりとしたソファに座って何か書類に目を通していた。

その後ろに控えるようにアークがたっている。


「「おかえり、。」」

「ただいま、カノンさん。アークさん。」

重なった二つの声に、はそう返す。

カノンは目を通していた書類をアークに渡すと、を手招きた。

招かれるまま、はカノンの正面に座る。ふかふかのソファがの体重を受け止めて沈んだ。

ひくいガラスのテーブルの上には、グライスに入ったアイスティーが三つと、クッキーが花柄の皿に広げてある。

アイスティーに刺さっていた緑色のストローを咥えて、一口二口飲む頃には、
アークが手渡された書類をしかるべき場所になおして、カノンの側に戻ってきた。

、旅行は楽しかったかい?」

薄い灰色の眼が柔らかくを映しこむ。

言葉にうん、と、は頷いた。

「楽しかったよ。久しぶりに学校の友達にも会えたし・・・・」

つい先ほど玄関でメイドに言ったような科白を口にして、はクッキーに手を伸ばした。

チョコレートいろとバタークッキーの白がマーブルになったものを指につまむ。

真ん中には砕いたナッツがのっていておいしそうだ。

「恋人にも会えたし?」

「・・・は・・・・?」

サクと、砕いたクッキーの粉と言うには大きな破片がぼろりと、の膝の上に落下する。

は目の前のカノンの顔を凝視してしまった。

にこにこと、いつもの柔らかな表情で微笑んで、透き通るような灰色の眼でをじっと見ている。

続いて、はゆっくりと視線をカノンの後ろに控えているアークへうつした。

アークは少し緊張したような様子で、こちらをみていて、とバッチリ目が合う。

鋭く柔らかい翡翠色の眼がと目が合ってすぐ、気まずそうに反らされた。

(・・・あ、なんか、やばそうな空気?)

ぞわ、との背中に怖気が走った。

カノンがにこにこして、を見ているのに、アークがから目をそらす時は大概カノンが何かをやらかす、企む、そんなときだ。

。」

カノンが柔らかくを呼ぶ。

呼びかけに、はやっとカノンとの会話を中断していたことを思い出した。

「あ、うん。えっと、カノンさん。オレ、恋人とか・・」

いないし。と、続けようとしたところに、ピラリと眼前に突きつけられた一枚の写真。

映っているのは二人で、仲がよさそうに並んで歩いている。コッソリと手も繋いでいたりする。

片方は、もう片方は・・・・

「・・・・・。いやいや、恋人じゃあ・・・ほら、男だし?仲のいい友だ・・」

決定的じゃない!セーフ!セーフ!と頭の中で自分を元気付けながら、言葉を紡ぐ。

の言葉半ばに、ピラリともう一枚写真。

綺麗に写真に収められたソレは映画かドラマのワンシーンのような完璧なキスシーンで、キャストはと前の写真と一緒の彼だ。

「・・・。」

ちょ、決定的じゃねーの!アウトォオオオ!!!アウトォオオオオ!!!

っていうか、いつ?!これ、いつ撮った?!ていうか、ちょ、オレなんでうっとりしてんの?!頬染めてんの?!キモチワルイよ!オレ!!!!!

頭の中でいつかの写真の中の時間軸の自分を全力で罵倒する。

にこ。と聞こえそうなほどに満面の笑みを浮かべる、目の前の養父が恐ろしい。

否、真に恐ろしいのは、ちょっと勝ち誇った感じと言うか挑発的な、ばっちりカメラ目線のもう一人のキャストだろうか?

ひく、と、の口元がひきつる。

「気持ちよさそうですね、。」

やめてぇええええええ!!!!!

そこの知れない笑みでいうカノンには声にならない絶叫を上げて、ソファの端に積まれていたクッションに顔を埋めた。

死にたい。

ていうか、カメラに気付いてたんだったら言ってくれ。お願いします。ねぇ・・・

「今度、つれてきなさいね。彼。」

「や、えと・・・つれてきなさいというか、カノンさん。アナタは一応息子?(正式に養子に入ったから、オレ息子だよね?・アイシスになったもんね、戸籍)が、おんなじブツが股の間にぶら下がってるカレシ?をつれてきてもその辺はいいんですか?」

「性別なんてたいした問題じゃあないでしょう、もし何かその関係で問題があるなら工事すればいいんですよ。」

カノンの一度実家につれていらっしゃい宣言に、がクッションから顔を上げて、決まり悪そうに言えば、さらりとそんな返事がかえってきた。

たいした問題じゃないって、ていうか、工事って・・・

一緒に過ごしていて、目の前のカノンという男がとんでもない男だというのは、生活の端々で垣間見ていたが、やっぱりとんでもない。

カノンの科白に呆然としているなど無視して、目の前の見目麗しい養父は、そう思いません?アーク、どう思います?と後ろに控えている己の側近にのほほんと、声をかけている。

「自分は・・。」

主に意見を求められて、ようやっと今まで黙っていたアークが口を開いた。

に工事しろだなんて言う相手は、に相応しくないと思います。」

「まぁ、それもそうですね。」

「・・・・。」

真面目な顔でいったい何をおっしゃっているんだろうか、この人たちは・・・・。

工事ってなに?というか、男とアンナコトや、ソンナコトしちゃってることについては、スルー?

いろんなことが、の脳裏にぐるぐるまわっては、消えていく。

「もし、相応しくなかったら、殺っちゃえば、いいんですよ。」

くす、と、カノンが口角を持ち上げて、艶やかな笑みを浮かべて柔らかな声色とは裏腹に紡がれたとんでもなく物騒な科白に、は思考の海に沈んでいた意識を浮上させた。

「え・・?カノンさん・・・?」

いま、殺すとか言わなかったろうか?このヒト。

思わずは声をかける。

目の前の麗人は、相変わらず柔らかく笑っている、が、目がちっとも笑っていない。

ぞわ、と、背筋に怖気が走った。目の前の養父は本気だ。

「ちょ、アークさん!カノンさん止め・・・」

唯一、カノンを止められるであろうアークに助けを求めようとした言葉は途中で止まってしまった。

というのも、視線の先のアーク=エルフォルドが、いつの間に組み立てたのだか知らないが、ライフル銃を持って、その弾奏に弾をつめていた。

目には何処から出したのかわからないが、サングラスと、手には黒い皮手袋。さながら映画で出てくる殺し屋の風貌だ。

・・・アークさん・・?なにしてんの・・・?

それ、何のコスプレですか?と聞く度胸はにはなかった。

「頼みましたよ、アーク。」

「はい。必ず仕留めます。」

「ちょ、何を仕留めるつもりですか、あんた達はぁああああああああ!!!!!」

「心配しなくていいですよ、。アークの腕は確かですから、一発で終わります。相手も苦しまないでしょう。」

「いやっ、そういう問題じゃないですからっ!違うから!根本から!!殺しちゃだめだからっ!!!!」

「えー・・・・じゃあ、社会的に抹消・・・」

「それもダメだって!!!!」

ていうか、大の大人が“えー”とか言わないで!カノンさん!!!

。」

ぽん、と、黒い皮の手袋に包まれたアークの手がの肩に置かれる。

「アークさん・・?」

じっと、サングラス越しに、翡翠の目に見つめられて、はどぎまぎする。この、優しい色をした目に見つめられるはくすぐったくて、すこし苦手だった。

「大丈夫だ、。」

優しい、優しい、の好きな音でアークが言葉を紡ぐ。

「彼のへの愛がホンモノだったら、多分死なないから。」

科白はいっこも大丈夫でもなければ、優しくもなかったわけだが。

「ちょ、アークさんんんん!!!!!」

さわやかな笑顔で去っていくアークの背には必死に手を伸ばすが、後ろから伸びてきたカノンの腕に抱きすくめられて、ついにアークを追う事は叶わなかった。

「いってらっしゃい、アーク。」

「はい、行ってまいります。」

「いっちゃだめだって!アークさんんんん!!!!!!」

自分を挟んで内容と反比例した爽やか過ぎるやり取りが、恐ろしい。

こんなに恐ろしい、「いってらっしゃい」「いってきます」の言葉を、は人生で始めて経験した。

パタンと、無情にもしまる白い扉と、その向こうに消えた、黒いスーツの背中。

に残されたのは、異国にすむ彼が無事に逃げとおすことを祈ることだけだった。


fin

ちょっと息抜きにギャグでも・・と思って、やっぱりgdgdに・・・

ちなみにのカレシ(笑)は、皆様の妄想にお任せ

ていうか、マジでオリキャラしか出てないですね。これ・・

すでに夢とは呼べないよ!コレ・・!!!!という、苦情は受け付けません←

09/09/07*翠