花冠




コチラに向けられる漆黒の双眸。

一対のソレは闇と呼べるほどに深い色。

そこに、自分の顔と、翡翠が溶ける。映る。


けれども、それだけ。





花冠
 -ルックアット-






“僕は、キミがうらやましいよ・・・”

カーテン越しに聞こえた、か細い声にカインはその翡翠を歪めた。



「・・・・うらやましい・・・か。」

完全に人の気配が消えたころ、カインは聞こえた言葉を反芻した。

じっと、視線をベットに横たわるに落とす。

白い白い抜けるような白い顔で、ただ眠る

彼は何も語らない。

それは、今、意識がある、なし、に関係なく。

あったとしても、彼は決して多くを語りはしないから。

自分のことも、は語らない。
(否、自分のことだからこそ知れないけれど。)

カインがにつるみはじめてから・・一方的に構い始めてから暫くたつが、お互いに知らない事は多くあった。

たとえば、が好んで食すものだとか、好む色、苦手なもの。

何処出身なのか、誕生日だとか。

普通に友人としての付き合いがあれば、知っているような他愛ない情報を、カインは知らなかった。

同時に、もカインのそんなパーソナルデータは知らないし、知ろうともしないのだろう。

お互いに、何も聞かず、聞かれず。

「・・・・隠し事とか・・多そうだしなぁ・・オマエ。」

返事は返ってこない事をわかりながら、カインは眠るに語りかける。

「オレの、好きなモンは・・・そうだな・・コレといってはねぇか・・・。色は、黒と、緑が好きだ。苦手なもんは・・・思いつかねぇなぁ・・・。ああ、でも魔法史の授業は苦手か・・眠たくなる。」

ほつり、ほつりと話しかける。

「誕生日は9月21日。ちゃんと祝えよ。」

さらと、シーツに散らばる薄闇の髪を指に絡めて撫でる。

「・・・・オレも教えたんだから、オマエも教えろよ。」

一方的に情報をあたえておいて、同じように一方的に要求する。

・・・。」

呼んで、指先での輪郭をなぞる。

今は閉じられた漆黒の瞳。

瞼の裏のソレは決して“カイン”を視ていない。

いや、事象として、たしかに視界に捉え、網膜に移し、視覚情報を脳に飛ばし、視ているといえば、みている。

が、あくまでそれだけなのだ。

「なぁ・・・オマエ、ダレを視てんだ・・?」

じっと、カインの翡翠の眼を見て、その色をその漆黒に映して、その先に何を見ている、ダレを見ている?

「なぁ、・・・。」

何時だって、はカインの眼を通して、どこか違う何かを見ていた。

時折、ほんの僅かに悲しそうな、切なそうな、けれども愛おしそうな、そんな色に、の眼は変質する。

そういう時は決まって、カインの翡翠の向こうをが視ているときだ。

「オマエの目の前に存在するのは、カイン=ツェリベットだっつーのに・・・」

クっと、カインは唇をゆがめ、自嘲した。

はカインを見ていない。

ソレをわかっているのに、カインはを突き放す事も、軽蔑する事も・・・

視ることを強要する事もなかった。する気もない。

「まぁ、今は甘やかしてやるさ。」

物事には順序がある。

いつか、逃げ場をなくすように、気付かれないように。がちがうところを見ている間に、逃げ道をふさいでしまおう。

「ま、じっくりやるさ。」

彼は、狡猾なスリザリン生なのだ。

カインは笑みを浮かべた。


“僕は、キミがうらやましい。”

ふっと、先ほど投げられた言葉が脳裏に蘇る。

うらやましい。と言葉を吐いたネビル=ロングボトム

たしかに、彼は可愛そうなほどにに避けられているが、それはすなわちが“彼自身”を見ているということに他ならない。

「ったく・・オレは存在認識からだっつーのに・・・」

小さくため息をついて、カインは言う。

「オレは、オマエがうらやましいっての・・・」

その存在を、きちんとに見られ、認識されている彼が。

カインはもう一度の頭を撫でると、カーテンを引いて、白く区切られた場所を出た。



fin

短いですが、ノーアンサーのカインサイド。

カインはまだにちゃんと存在認識されてません(笑

あくまで、目の色がアークに似ている人、アークの存在、面影を感じられる人なのです