奇形





世の中便利になって、いつでもどこでも、もってさえいれば連絡可能な電話ができた。

携帯電話。

いまや、小学生だってもってる、便利なソレ

嗚呼、でも、コレをもってること・・ちょっと後悔してる。




*呼び出し





枕元でヴーヴーと、細かい振動音。

(・・・うるさいなぁ・・・・)

多分、枕元に置いている、携帯の音だ。

マナーモードにしているから、メロディは鳴らない。

は基本的に眠っているとき、携帯はマナーモードに設定している。

アラームは出席日数の関係で学校に行かなければならない時意外はかけない。

携帯のメモリーの入っているアドレスは、父、母。それだけ。

だから、マナーモードにしていれば、の睡眠を妨げる着信は殆どない。
(もっとも、マナーモードにしておかなくても、着信は殆どないのだが)

あとは稀にくる迷惑メールといわれるソレだけだ。

父親や、母親からの着信なら、バイブレーターの振動パターンも変えてあるから、すぐにわかる。

しかし、先ほどからの枕元で震えている携帯の振動パターンはその設定したモノではない。

(迷惑メール・・か・・まちがい・・電話・・・)

半分以上眠った頭でそう判断して、は手探りで携帯を掴むと、そのまま、ポイと足元に投げた。

足元であれば、いくら振動しようが気にならない。

(しずかに・・なった・・・・)

むにゃと、は小さく唸ると、寝返りを打って再び睡眠をむさぼり始めた。





午後2時過ぎ。

はようやく夢の世界からゆっくりと浮上した。

「・・・あー・・・・」

とりあえず、無意味に声を小さく出して、ゆっくりと上体を起こす。

ベットヘッドに置いてある、デジタル表記の目覚まし時計は14:18を表示していた。

雨や曇りや嵐でもない限り、太陽がさんさんとその存在を主張している時間だ。

よく当たると定評のある番組の昨日の天気予報では、本日は晴れの予報だった。

きっと、遮光カーテンの向こうは酷く明るいのだろう。


暫くベットの上でなにをするわけでもなくぼんやりとしたあと、はようやくのろのろとベットから降りた。

とりあえず、キッチンにいき、ケトルに水を入れると、電源を入れて、湯を沸かし始める。

湯がわくまでの間に、次は洗面所にいき、顔を洗って歯をみがく。

磨き終わったら玄関までいって、新聞をとり、それからまたキッチンにもどり、ちょうど沸騰したお湯で、紅茶を入れる。

ダージリン茶葉のいい香りがしてきた頃、はポットとカップをもって、お気に入りのソファに身を沈めると、紅茶をカップにそそいで飲みながら、新聞を読み、文章を読むことでゆっくりと脳を覚醒させていく。

しかし、今日はゆっくりと、というわけには行かなかった。

ゴフっと、は口に入れた紅茶を噴き掛けて、しかし寸での所で噴くのをこらえるが、むせた。

新聞の一面を独占する記事。

“アヤ=エイジア逮捕!”の文字と、アヤの写真。それはいい。

それはいいんだが。

その下に映る、同じ学校でクラスメイトの女子生徒の写真。

はその記事の文面を読み上げると、新聞を投げ捨てた。

「やりやがった・・ちくしょう・・・」

小さく吐く。

新聞にのせられた女子生徒の写真は、つい数日前ひょんなことで見てしまった、いかにも妖しげな自称魔人との賭けのネタに使っていた人間だ。

賭けたのは、彼女を一週間以内に全国区クラスの有名人にできるかどうか。

が勝てば、かの魔人は今後一切に関わらないと約束し、負ければ・・・

負ければ・・協力者・・もとい、奴隷人形・・・・。

「・・・・・」

脳裏に、にやぁっと質の悪い笑みを浮かべる魔人の姿が投影される。

頭痛がしてきてはとりあえず、新聞を見なかったことにすると、戸締りをいつもより念入りに確認して、寝室に戻った。

もちろん、寝室の鍵、窓の戸締りもしっかりと確認する。

「はは・・・いやいや、魔人がこんな何処にでもいるような人間との約束なんて覚えてないって・・・」

だれに言うわけでもなく、言い聞かせるようにそう独り言を吐いて、はかぶりをふった。

(さ、いやなことは寝て忘れちまおう・・・。)

いそいそと、ベットの中に再び身体をもぐらせようとしたところで、ヴーと、携帯のバイブレーションの音がした。

「・・・・?」

布団の中から響く音に、は「そういえば、寝てるときにもなってったっけ・・?」と首をかしげながら、布団に埋もれた携帯を発掘する。

二つ折りのソレを開くと、画面には“新着メール2件”の表示。

ポチポチとボタンを操作して受信ボックスを開くと、しらないメールアドレスから2通。

同じメールアドレスからだ。

「・・・。」

見知らぬメールアドレス。その時点でなにか背筋にぞわぞわとしたものを感じながら、それでもはメールを開いた。

とてつもなく、いやな予感に、メールを「あ!手がすべっちゃたぁあああ!」で、削除したい気持ちを押さえつけたのは、削除したらもっと恐ろしい事になるような予感がしたからだ。


[from]*******@*****.ne.jp

[sub](no title)

[本文]

賭けは我が輩の勝ちだ。

T都***区**3−***



「・・・・。」

一通目に目を通す。

予想通りといえば、予想通りの相手からのメール。

簡潔すぎると思える文章と、住所。

おそらくそこに来いということだろう。

(てか・・なんでオレのケータイのメアド知ってんだよ・・・)

人外ってなんでもありかよ・・と、ブツブツといいながら、とりあえずメールアドレスを登録する。


それから、2通目を開いた。



[from]人外

[sub](no title)

[本文]

(^▽^)



(こっ・・・こえぇええええええ!!!!!)


ぞわわわっと、の背筋を悪寒が駆け抜けた。

本文に文章がなく、ムダにかわいい顔文字だけというのが、なんだか気味が悪い。というよりも、恐ろしい。

無視して放っておけば・・どうなるのか、正直想像したくない。

「・・・・・・。」

は覚悟を決めると、スウェットから普段着に着替えた。




next

ようやく話が進みました。

次は件のドS魔人が出るはず。

翠*08/05/13