奇形
本日の天気。晴天。
あつくもなく、寒くもなく、快適な気温と湿度。
オレは本日、人生最大の失敗をした気がします。
*未知との遭遇
男子にしては少し長めの栗色の髪は日本人らしくないが、地毛。
とくに染めたり、脱色したりはしていない。
肌も白め。
目の色は薄いグレー。
理由は多分、自分がクウォーターだからだろう。
母がハーフで、父が日本人。祖父がイギリス人。
。それが彼の名前だった。
歳は16歳。私立高校に通う男子学生だ。
面立ちは整っており、長い睫や二重の眼、パーツそれぞれが整って、正しい位置に配置していた。
男と言うよりも少女めいた容姿をしてた。
容姿端麗、成績優秀、授業態度はきわめて不真面目。今日も今日とて自主休校。
両親は仕事の都合で殆ど海外で過ごしているため、は学校付近のマンションで独り暮らしをしている。
裕福な家庭に育ち、両親はわりと親ばか。
毎月結構な額の仕送り金を講座に振り込んでくれるため、はとくにバイトもせずに、気ままに暮らしている。
そんな、探せば見つかりそうな高校生だったが、一つだけ、他の人間とは違うところがあった。
くぁと、は欠伸をして空をぼんやりと見上げた。
高いビルが並ぶ中、その先に青い空が広がっている。
制服を着ていれば補導されてしまうので、私服だ。
ポケットに手を入れて、だらだらと歩く。
と、ピタリとは立ち止まった。
横断歩道だ。信号は青。
しかし。
(・・・あっち、まわろー・・・)
正面の特になんの変哲もない横断歩道を、信号が青だったにも関わらず、はくるりときびすを返して、歩道橋をつかう。
たくさんの人間が、横断歩道を渡っていく。
それを歩道橋の上からチラリとみおろして、は表情をゆがめた。
なんの変哲のない、横断歩道だ。
しかし、にとっては、そうではなかった。
「見えて」しまうのだ。そこに、片足のもげた、少女が血濡れで這っているのが。
(うぇー・・・見えてないって、幸せー・・・)
少女の上を、何人もの人間が踏みつけながら歩いていく。
「みえない」人間にとって、そこは、なにもないただの何の変哲もない横断歩道なのだから当たり前だ。
はすぐに横断歩道を見るのをやめて、歩道橋を渡りきる。
は、ちょっとばかり他人より、所謂「霊感」というものが強かった。
見たい、見たくない。
関係なく、見える。
最初こそ戸惑ったものの、むしろ、幼年のときなぞは、あきらかに血まみれで「死んでます」という風貌でなければ、生きた人間と、死んでいる人間の区別もつかなかった。
しかし、今ではもうすっかり「見えること」に慣れてしまっていて、ついでに言うなら、グロッキーでスプラッタな映像もへっちゃらになった。
あちら側の世界の住人。「幽霊」や「おばけ」なんていうものでくくられる彼らは、特にに危害を加えることもない。
もちろん、加えようとする所謂「悪霊」なんて言葉で括られる霊もいるにはいるが、対処方法がわかっていればたいした脅威にはならない。
しかし、特にその「対処方法」というものは、何かで勉強するわけでもなんでもなく、本能で知っていたというべきソレだった。
特異な体質を持っていると、ソレに伴う影響に対して本能が備わるんだなぁ・・・と、はじめて「悪霊」に襲われて身を守ったときにボンヤリと考えた。
くぁと、はまた欠伸をした。
(暇だなぁ・・・・)
ぼんやりと、当てもなくダラダラと歩く。
(・・・そろそろ帰るか・・・)
いつの間にか家から出た時刻から随分とたっていた。
ぼんやりと歩きすぎた・・と頭をかく。
と、声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声。女の声だった。
記憶の中をはさぐる。
(あーと・・えーと・・・まぁ、いいか・・・)
しかし、早々にあきらめて、はまたダラダラと歩き出した。
歩いていればそのうち大通りに着くだろう。
と、前をぼんやりとみて、思わずまた、立ち止まる。
(え・・・なに・・?アレ・・・・)
視界に入ったのは後頭部。
どう考えても人間じゃない。しかし、いつも馴染みの、どこかがもげていたり、脳みそが見えていたり、内臓が見えていたり、血みどろだったりする、スプラッタな彼らでもない。
大きな角が2本。頭から生えている。
そのイキモノの正面に女。
女はソレをみて飲んでいたジュースを噴出していた。
どうやら、女にも「ソレ」は見えているらしい。
聞き覚えのある声。先ほども聞こえたその声。
遠目に顔を見てようやくは、その女が自分と同じ学校の、同じクラスの「桂木 弥子」であることを記憶のソコから引きずり出す。
そのころには、頭から角が生えていたソレはすっかり、フツウの人間の頭になっていた。
キョロキョロと弥子が周囲を確認している頃、は息を潜めてビルとビルの間に身体をすべりこませて隠れていた。
本能が、関わるなと、全力でに訴えている。
は自分の直感は信じるほうだ。霊感が高い事が関係しているのかどうかはワカラナイが、いやな予感はよく当たる。
(なんだ・・アレ・・なんだアレ・・・・)
ぐるぐると、先ほど見た、あきらかに人間でない後頭部が脳裏に回る。
(桂木・・アンナノとなにしてんだ・・?)
そばにいたクラスメイトに対しても疑問を浮かべ、それからはフゥと一つ深呼吸をした。
(よし。忘れよう。オレは何も見なかった)
うんうんと、だれにするわけでもなく頷いて、は、桂木弥子と「ソレ」が遠ざかる時間を待って、ビルの隙間からぬけると、またダラダラと歩き始めた。
**********
「さて・・・。」
“元”早乙女金融事務所をあらゆる意味ですっかり掃除し終えて、長身の男はパンと、手を叩いた。
「野暮用があるので、すこし出るぞ。」
「え?なに、ネウロ・・まだ、なにかあるの?」
長身の男、ネウロの言葉に制服を着た女が問う。
言葉にネウロは大した事じゃないと、いって、言葉を続けた。
「なに・・昼間、うっかり元の姿にもどってしまったときに、ソレを見られてしまってな・・口封じにでるだけだ。」
「ああ、あのときに・・・って、えぇええ?!正体みられたって・・・それ、ヤバイじゃんっ!!」
女が叫んだときには、すでにネウロは外に出ていた。
閉じられた事務所の扉には新しい看板がつけられていた。「桂木弥子 魔界探偵事務所」と
「はぁー・・・・・」
チャポンと水滴の音。
暖かな湯で満たされたバスタブに身体を沈めて、はほぅと息をついた。
(今日は変なもんも見ちまったけど・・・まぁ・・平和だったなぁー・・・)
横断歩道にいた血濡れの少女や、クラスメイトと一緒にいたモノ。
前者はもうすっかり見慣れてしまった「彼ら」の一人。後者は始めてみたモノだったが、今後関わる事もないだろう。
むしろ、関わりたくない。とは思う。
(サクっと忘れちまおう。うん)
どうでもいいことだ。さっさと忘却のかなたに追いやってしまうのがいい。
ザブと、は湯船から出る。
睡眠にはまだ早い時間に思えたが、もう寝てしまおうと、は脱衣所で着替えながら欠伸を漏らした。
体の水分をふき取ってスウェットに着替える。
まだ水気を含んだ髪を肩にかけたタオルで拭いながら、は脱衣所のドアを開けて、リビングに続くドアを開けた。
「・・・・・・。」
そして、閉める。
(・・・え・・・?いま、なんか、いたよな・・・・?)
リビングへの扉を開けて、最初に眼に入るのはソファだ。
ダークグレーのクッションの効いたそのソファのすわり心地は、も気に入っている。
ソコに、だれかが座っていた。
ついでに、優雅にカップで茶も飲んでいたきがする。
ちなみに、は独り暮らしだ。
両親からも、帰ってくるという話は聞いていない。
(・・・まさか・・強盗・・・?)
いやいや、強盗がのんびりとソファに座って茶なんぞ飲むハズがない。
と、自分の思考回路に慌ててツッコム。
はゴクリと、ツバをのむと、もう一度ゆっくりとドアを開けた。
眼に入る、お気に入りのソファ。
そこにはだれもいない。
ホっと、息をつく。
(だよな・・・疲れてんのかな・・まぼろしとか・・・)
「随分と長風呂だな。」
聞き慣れない低い声がの鼓膜を叩き、目の前に、深緑。
それが、誰かの目で、めのまえに、誰かの顔が逆さまに有ると認識したのは一瞬後。
「うわぁ?!」
反射で後ずさったの腕を、ソレはすばやく捕まえる。
「な・・な・・・な・・?!」
突然の事に思考が追いつかず、口を金魚のようにパクパクとは開閉する。
飛び出す言葉は、言葉ではなく、ただの音。
言葉が紡げないほどに、は混乱していた。
「我が輩の名は、脳噛ネウロ。」
「は?!」
混乱しきっているに構わず、ソレは言葉を紡ぐ。
いつの間にか逆さだったソレはきちんと床に足を着けて、を見下ろしていた。
深い深い、深緑。
奇妙な色をもった、その深緑は、ニィと唇で弧を描いて笑みの形を作る。
ぐるぐると、思考がこんがらがった様に回る。
目の前の男に見覚えなどない。
知り合いでもなんでもない。
玄関はオートロックだし、マンションのエントランスにもセキュリティーがしっかりかかっている。
ついでに言うなら、の部屋は地上23階で、窓からの侵入だって不可能なはずだ。
なのに、この目の前の「脳噛ネウロ」と名乗った男は、の目の前にいる。
(強盗・・不法侵入・・・警察・・)
ぐるぐると、単語が浮かんでは消える。
「貴様、見たな・・?」
「な・・なに・・・・?」
男はまた、言葉を紡いだ、それには回らない思考で返す。
「見たんだろう?我が輩の、正体を」
ニヤァと、男が不気味ともいえる笑みを浮かべたかとおもうと、その顔が変化していく。
人間の・・ヒトガタのソレから、角の生えた、まるで鳥の頭のようなソレに
「・・・!!!」
にゅっと後頭部から生えた2つの角。
鳥のような大きな嘴。
あきらかに、人ではないソレ
「あ・・んた・・。桂木と・・いた・・・」
「ホウ・・弥子をしっているのか?」
異形のソレが目を細めて笑う。
次の瞬間にはソレはまた深緑の眼を持つ男の姿に戻っていた。
ギリと、掴まれた腕に力が込められる。
腕に走った痛みには顔をゆがめた。
「さて・・改めて自己紹介しようか?我が輩は脳噛ネウロ・・謎を喰う“魔人”だ。」
「ま・・魔人って・・・・。」
普通ならばそんな言葉信じないし、もし目の前の男意外が言おうものならば、は「病院いってこい」と切り替えしただろう。
しかし、目の前の男は、あきらかに異形の姿をに見せ付けた。
“魔人”そのことばを否定できない。
「さて・・次は貴様の番だ、人間。名は?」
「なんで・・んなことおしえなきゃいけねぇんだよ・・・」
ギリギリと自らの腕を掴む魔人の手を剥がそうと掴み、は爪を立てる。
“人間でないもの”には慣れていた。
もちろん、目の前の魔人とは違う種類ではあったが、それでもは普通の人間が未知のものとであったときよりもはやく、頭の中の混乱を落ち着かせると、深緑の眼をにらみつけた。
出来れば、全力で目の前の自称魔人と関わりたくない。
さっさと出て行ってくれと、目で訴える。
が、魔人は相変わらず口元に笑みを浮かべて、を見下ろしたまま、するりと、両手にはめた黒皮の手袋の片方をはずした。
(げ・・・っ・・・!)
途端現れる、あきらかに人ではないものの手。
正直、手と言うよりもはや凶器だ。
魔人はソレをの目の前に見せ付けるようにちらつかせ、それから、小首をかしげて凶悪にも可愛らしいポーズをとる。
「おしえてくれないのか?」
ポーズは大変可愛らしいが、イヤだといったら自分の首と身体が永遠のお別れを告げそうな予感がしてならなかった。
(おしえなかったら殺される!)
むしろ予感と言うか、それは確信に近い。
「・・・・・・。」
ヒクと、は口元をひきつらせると、あきらめたようにおおきく息をついた。
「わかった・・わかったから・・座らせてくれ・・・・」
の申し出に、魔人は了承すると、さっさとソファに座る。
お互いにテーブルを挟んで向き合って座って、は、ハァとため息をついた。
相変わらず、正面の魔人は凶器をちらつかせている。
「座ったぞ。さぁ、話せ。」
当然のように命令口調でに告げる。
言葉にはもう一度大きなため息をついて言葉を紡ぎ始めた。
「名前は、。 だ。」
「ほぅ、では、弥子のことはどうして知っていた?」
「・・・学校で同じクラスなんだよ・・・」
「貴様に保護者はいないのか?」
「・・・・親は殆ど仕事で海外。」
あきらめたようには問いにスラスラと答えていく。
「で?アンタいったい何しに来たわけ?」
いくつかの質問に答えて、今度はが魔人に問う。
その言葉に魔人はにんまりと質の悪い笑みを浮かべると、言葉を紡いだ。
「なに、我が輩の正体が公になるとコチラでは何かと動きにくそうなのでな・・・・。目撃者の記憶を壊そうと思ってな。」
「あー・・そう・・・。」
いって、危なげな光を灯した深緑の眼に、はもうあきらめきって生返事をすると、「じゃあ、さっさとおわらせれば?」と両手を挙げる。
降参のポーズだ。
しかし目の前の魔人は目を三日月のように細めると、さらに言葉を紡いだ。
「いや・・貴様には我が輩の奴隷にんgy・・・もとい、協力者2号になってもらう。」
「なぁ、いま奴隷人形っていおうとしたよな?絶対。」
一号はやっぱり桂木なんだろうなぁ・・・と、頭の中でクラスメイトに同情した。
目の前の魔人の口から飛び出したとんでもない言葉にはすかさず突っ込むと、冗談じゃないと首を振る。
もっとも、この短時間で把握した魔人の性格ならば、が否定したところで物理的な脅迫を持って了承させられる予感はしていた。
しかし、魔人はちらつかせていた凶器を手袋をはめる事によってしまうと、フムと、一つ頷いた。
「では、我が輩と賭けをしようではないか。」
「賭け・・・?」
「そうだ。負ければ貴様は我が輩の奴隷2号だ。」
「オレがかったら?」
「我が輩は貴様に今後一切かかわらないと、約束しよう。」
「・・・・・・。」
いって、優雅に長い足を組みなおした魔人の深緑の眼をは探るように見つめる。
それから、ひとつ間をおいて言葉を紡いだ。
「・・・その賭けの内容はオレがきめても?」
「最初からそのつもりだ。貴様が指定したこと指定した期日で我が輩が実行できなければ我が輩の負け、貴様の勝ちだ。」
「わかった。」
魔人の言葉には頷いて、慎重に賭けの内容を思考する。
己の人生・・人権がかかっているのだ。
そしてはようやく言葉を口にした。
「桂木弥子を全国区で有名にすること。あ、大食い以外でな。期日は・・一週間だ。」
じっと、深緑を挑むように睨み付けて、賭けの内容を言葉にしたにネウロはにんまりと笑った。
next?
なんとなくポチポチうってしまったネウロ夢。
多分原作沿い・・?
ネウロがお相手になるハズ。逆ハーはない。
ありきたりなベタなお話になるかと