花冠




ハナカン?
 -もしも“ハーマイオニーが腐女子だったら”-




「・・・・・最近、視線を感じる・・・。」

突然ピタリと立ち止まり、が小さく漏らした言葉に、隣にいたカインは目を瞬かせた。

じっと、の顔を見る。

なにをいまさら

言いかけて、カインはやめた。

かわりに「そうか?」と返して、首をかしげる。

こくりと、は頷いた。

「あんまり、気にしなくていいんじゃねぇ?」

眉間にしわを寄せて、気配を探っているらしいに、カインはそういって、ポフと、頭に手を置いて撫でてやる。

はソレを鬱陶しそうに振り払い、それから一度息をついて、「・・・そうだな。」と、吐き、また歩き出した。

カインもそれに並んで歩く。

歩きながら、きょろりと、視線を周囲にめぐらせた。

いくつかの女子生徒と眼が合って、瞬間そらされる。

カインはすぅと目を細めた。

。」

低いトーンの声で、急に立ち止まってカインが呼ぶので、も足を止める。

「なん・・・」

だ。と、全て言う前に、腕をつかまれ引き寄せらた。

抱きしめられる。

ぎゅう。と擬音がつきそうなほど。


「・・・・・・なんだ・・?」

カインの腕の中に閉じ込められながらも、は常と変わらぬ声色で問いかける。

気にしていないのではない。

驚きすぎて、頭の中が混乱するあまりに、逆に外面に出たのは無反応であっただけだ。

カインは「べつにぃ?」と言いながら、周りの視線がこちらにあることを気配で確認する。

「なんにもないのなら、放せ。」

カインの言葉にはぐっと、カインの胸を押した。

少しだけ、カインとの間に空間ができる。

が、一定の空間が空くと、がどんなに腕でカインを押してもその距離が開く事がなくなった。

は眉間にしわを寄せて、何のつもりだという意思を込めて、カインを見上げる。

カインの柔らかな翡翠の眼と、目が合った。

じっと、その目に見つめられて、は怪訝そうな顔をする。

「おい、カイン?本当にいったいなんなん・・・」

やっぱり、最後の、だ。を言う前に、の思考は停止した。

ちゅ。と可愛らしい音と、唇に感じた柔らかな感触。


一瞬の間。


きゃあああああ!!


語尾にハートマークがつきそうな、甘くて黄色い女子生徒の絶叫。

眼を見開き、口を顎が外れそうなほどに開け、マヌケ面をさらす男子生徒。

ボトボトと、なにかモノを取り落とすような音もそこらじゅうから聞こえた。



カインはにぃと、目を細めて笑う。

唇の端を上げて、を見下ろすその顔は、はっきりいって悪役面だ。

ちょい悪じゃない。完全に悪の面だ。


「じゃあな。」

また、後で。と、の耳元に言葉を残して、カインはするりと何事もなかったかのように去っていく。

は呆然とその背中を見送り、見送りきってしまった後に、ようやっと思考回路が回りだした。


「・・・・・。」


されたのは、キスだ。


触れるだけの、子供だましのような。


「・・・・・・。」

今更その程度

と、は一度ゆっくりと瞬きをして、次に眼を開けたとき、思わず一歩引いた。


目の前に、キラキラと聞こえもしない擬音が聞こえそうなほど、まさしくキラキラとした栗色の目でを見あげる大きな目。


「・・・・・・な、んだ。グレンジャー・・・・」

妙な威圧感のようなものをは肌で感じながら、そう言葉を紡ぐ。

いつものように、声などかけずに無視すればいいのに、それができない。本当に、妙な威圧感。


・・・。はやっぱりツェリベットと付き合ってるの?」


キラキラと本当に目になにか光物でも入っているんじゃないかと思えるように輝く瞳で、ハーマイオニー=グレンジャーはそうのたまった。


「・・・・・・・・・・・はぁ・・・・?」


たっぷりと、間をおいてが珍しく、その表情を無表情からまさに素っ頓狂な表情に変質させる。

「そう・・やっぱり、そうだったのね。あんっなにとげとげしいオーラで近づくもの全て、男女問わずに追い払ってきたが、
唯一その側にいることを受け入れたツェリベット・・・。最初は追い払っても追い払っても近づいてくる彼にしょうがなく・・・とあきらめに近い感情で、一緒にいたも、いつしか彼が側にいることが当たり前になって互いに惹かれるように・・・・」

「・・・グレンジャー・・・?」

しかし、たっぷりと間をおいたのがよくなかったのか、その間にハーマイオニーはすでに自分の脳内でさまざまな想像・・・もとい、どちらかと言うと妄想の部類に入るソレを展開していたため、妄想の世界に入った彼女には、まったくの言葉は届いていなかった。

「そんな気持ちがいつしか恋愛に発展して・・けれども、お互い同性同士で、しかも純血主義の純血魔法族と、完全マグル・・・。
まさに、禁じられた愛。ロミオとジュリエット・・・!!」

「・・・・・・。」

別に、妄想するのは構わない。

勝手にしてくれと、は思う。が、彼女の脳内妄想を口に出して垂れ流すのはやめてもらいたい。

ああ、グレンジャーの周りにピンク色の靄のようなものが見える。ような気がする。


周りの視線もいたい。

というか、ああ・・なるほど・・とかいいながら頷くんじゃない。


はくるりと思考を回す。

そして今、自分の出来うる行動を脳内に浮かべる。


1.このままグレンジャーが落ち着くまで見守る(?)

2.全力でグレンジャーを黙らせる

3.逃げる


(・・・・・3だろ。)

1は、彼女の妄想が終わるまで、耐え切れる自信がない。途中でキれてしまう可能性が高い。
(あまり知られてはいないが、は結構凶暴な性格だ(カイン談))

2は、黙らせる事は可能だろうがその後のグリフィンドールの連中のことを考えると色々面倒そうだ。

残るは、3。

ふぅと、一つ小さく息をついて、踵を返そうとした。

が、ぱしっとハーマイオニーに手を掴まれる。

がっしりと、両手で。


「私は、応援してるから・・・・!!!」

「は・・・・?」

頬を薔薇色に染め、大きな目でうっとりとを見あげてくるハーマイオニーに、は目を丸くして、そして、逃げるタイミングを見逃した。

とツェリベットの事、私は応援するは・・!2人が恋人同士なんて・・美形同士のカップルだなんて・・すごく素敵だと思うの・・・!!」

逃げるタイミングを失ったは、また小さくため息をついて、仕方なく、選択肢2を選ぶことにする。

ただし、暴力沙汰に持っていくのではなく、説得・・誤解を解く、と言う穏便な形で。

「まて、グレンジャー落ち着け。オレとカインは別に付き合っては・・・・」

「カイン?!今、カインって言った?!」

やや興奮気味での言葉を遮って叫んだハーマイオニーにはビクリと肩を揺らした。

「やっぱり、ツェリベットはにとって特別なのね!ファーストネームで呼び合ってるだなんて・・・!」

は他の誰の事もファーストネームで呼ばないのに!!

誤解を解こうとが紡いだ言葉はどうやら彼女の妄想スイッチをさらに強く押したらしい。

「や、それは・・・カインがそう呼べって強要してきたからで・・・・。」

「強要?!ツェリベットって、鬼畜攻めなの?!」

またも、の言葉を遮って、きゃぁvvと、語尾にハートをつけて頬を染めるハーマイオニーにはうなだれる。

(鬼畜攻めってなんだよ・・・・。)

思いながら、ハーマイオニーから溢れでる(ように見える)ピンク色の靄が、彼女だけからではなく、周囲の女子生徒たちからも立ち上っていることに、気付いた。

気付きたくない事実だった。


「とにかく・・・!オレはツェリベットと付き合ってはいない!」

いい加減に鬱陶しくなってきたは、常より強い声でそういう。

「あら?でも今キスしてたじゃない。」

「それは、アイツが勝手にしてきただけだろう。」

ハーマイオニーの言葉に、は疲れたように眉間に手をやって吐く。

それでも、ハーマイオニーは言及をやめなかった。

「でも、キスされたあと、なんだか自然だったし・・・しなれてるの?」

「・・・・・。」

言葉に、は眉間にしわを寄せる。

しなれていると問われ、答えは是だ。

キスも、それ以上のことも、しなれているといえばそうなのだ。

不特定多数の、男女相手に、だ。

しかし、カインとはどうだろう。

はしなくてもいいのに、回想してしまう。

思えば、少々過剰ともいえるスキンシップがあったかもしれない。

頬にキスだとか、額にキスだとか、指先にキスだとか

「・・・・別に、英国ではキスは挨拶程度の認識なんじゃあないのか。」

しかし、過剰だと思うのはが日本の文化を基準に考えているからだと、そう思っていた。

そんなに騒ぎ立てるほどのことではないんじゃないか。と言う意味を込めて、は言う。

が、ハーマイオニーは驚いたように目を丸くして、そして言った。

「やだ、挨拶のキスは頬にするのが普通よ。口にはしないわ!」

ったらいやぁね!と、どこかのオバサンのような口調で頬を赤らめて言うハーマイオニーには眉間のしわをさらに深くする。

「うふふ・・・・。」

「!」

と、ハーマイオニーの口から漏れた不審な笑い声にはビクリと身体を揺らした。

「そう・・・そうなのね・・・」

うふふふと、笑いながらそう漏らすハーマイオニーは不気味と呼ぶに相応しい。

って、しっかりしてるかと思ったら、意外に抜けてるっていうか・・世間知らずと言うか・・素直と言うか・・・天然と言うか・・・真っ白なのね・・・」

世間知らず、は、まぁ異文化については全く一般常識とやらがわかっていないのでよしとしよう。

が、素直なわけないだろ。結構ひん曲がってると思うぞ、オレは。

天然ってなんだ。そんなキャラじゃあない。天然というのは、もっとホヤーっとしてるようなヤツだろ。

何が真っ白なものかと、はいってやりたかった。

男媚として、不特定多数の男に身体を開いていた自分はむしろ、真っ黒だ。とも。

しかし、そんなことを声を大にして叫ぶことではない。

は、異文化という隠れ蓑をイイコトに、ツェリベットに調教されてるのね?!」

「ちょ・・?!」

ぶわっと、ハーマイオニーの周囲にピンクを通り越して濃い紫色のオーラが渦巻いた。・・・ように見えた。

ついでに、濃厚な夜の匂いがの鼻腔に届く。

なんとなく、甘い匂いだった。

ついでに、知りたくなかった匂いだった。

「うふふふふふ・・・。次の新刊のネタは決定だわ!」

ぐっと、握りこぶしを作るハーマイオニーには2歩、否、3歩引いた。

そうして距離をとってから、恐る恐るといった風に、声をかける。

「お・・おーい・・・グレンジャー・・・?」

しかし、もっぱらの声は彼女には聞こえていないようで、ただただ口から不穏としか言いようのない笑みを漏らしながら、紫色のオーラを振りまくばかりだ。

「・・・・・・・。」

は引きつった表情を浮かべ、得体の知れない悪寒にぶるりと震えると、そろそろと足を動かして、彼女の側を離れようとした。

濃厚な負の匂い・・・夜の匂い。酔いそうなほどに甘ったるい菓子のような匂いにクラクラしてきたせいもある。

よろよろとした足取りで、その場を離れようとするの肩にポンと、背後から誰かの手が乗せられた。

もっぱら、そうやってに気やすく触れる人物はたった一人しかは思い至らず、それがこの意味のわからないハーマイオニー=グレンジャー妄想事件(たった今、命名)の発端となった人物であると、確信して、は不機嫌な表情を隠そうともせずに、振り向きざまに怒鳴りつける。

「カイン・・!オマエが馬鹿なことをするからグレンジャーが・・・」

壊れた と、続けようとして、しかしの言葉は止まった。

目の前にあったのは翡翠ではなくレンズ越しのエメラルド。

かの英雄様が、にっこりとどこか薄ら寒い笑みを浮かべてを見下ろしていた。


「・・・・ハリー=ポッター・・・・・?」

唐突な人物の現れに、が気の抜けたような声で思わず彼の名前を呼ぶ。

「うん、なぁに?」

ニコニコと相変わらず背筋がぞわぞわするような笑みを浮かべて、そういうハリーに、はソレはコチラのセリフだと心中で吐く。

訝しげな顔でハリーを見上げるに、ハリーはニコニコと例の笑みを浮かべたまま、すっとに顔を近づけた。

強い光を放つエメラルドがの漆黒の闇色に吸い込まれる黒鋼玉石。

嗚呼、本当に強烈なグリーンだと、ぼんやりと思っている、場合ではない。と気付いたのは

ぬるりと、唇に濡れた感触を這わされてからだった。

(って、コレ舌じゃねーか!!!!!)

心中で絶叫を上げ、勢い欲ハリーの胸を押し、エメラルドを遠ざける。

ハリーを自分から放して、さらに自らも数歩後退することで距離を広げる。

コシ、と、ローブの袖では唇を拭った。

(な、甞められた・・?!甞められたぞ・・?!)

頭の中ではグルグルと行われた事象ばかりが回る。

「・・・ハリー=ポッター!!!!!」

叫ばずにはいられない。

は考えるよりも早く、滅多に出さない怒鳴り声とも聞こえるような声を張り上げた。

が、動揺の為か微妙にひっくり返ってしまって、いまいち迫力はない。

「なぁに?」

にっこりと、かの英雄様は笑う。

「っ・・・!!!っつ・・・!!!!」

怒鳴りつけたい。罵りたい。

けれど言葉が出てこない。

は口を開いては閉じ、開いては閉じを何度か繰り返す。

にこにこと、ハリーは笑ったままだ。

その英雄様の笑顔に、プッツリとの中の、何かがキレた。

スゥと、勢いよく息を吸い、そのまま。


「このぉ・・・ヘタクソ・・・・!!!!!!!」


クワっと目を見開き、しっかりと英雄様を指差して。

勢いで叫び、そしてそのままの勢いで踵を返しすばらしいスピードで駆け出した。

逃走である。



が猛スピードで逃げ出した廊下は暫くシンとした空気に包まれる。

と、フっとハリーが息を吐くように笑った。

「ふぅ〜〜〜〜〜ん?・・・・・・・・ヘタクソ・・・ねぇ・・・・」

小さくはかれたソレは、シンとした廊下には酷く大きく聞こえ、スゥとエメラルドを凶悪にも細めた英雄に、その場の空気の温度がガクっと下がったようなきがした。

「は・・・ハリー・・・・?」

ぶるりと、急に肌寒くなった気がしつつ、今までハリーの近くにソレはもう空気のようにあった、赤毛の親友は恐る恐る、ハリーに声を書ける。

が、ハリーはそれを聞こえていないかのようにただじっと、が逃げ去った先を目を細めてみながら、口元に質の悪い笑みを浮かべるばかりで


「は、ハーマイオニー・・・・」


助けを求めるように、ロンはもうひとりの親友に視線を向ける。

が、彼女もまた、ぶつぶつと小さく吐き、時折怪しいとしか言いようのない笑い声を、その口から漏らし、

必死に羊皮紙になにかをものすごいスピードで書き込んでいて、まったく何も聞こえていないようだった。


「・・・・・・・。」



右には真っ黒なオーラを放つ英雄様な親友

左には紫色のオーラを放つちょっと甘酸っぱい思いを抱いている親友


ロンはゆっくりと左右を見やって、そして盛大なため息をついた。

ぽろりと、数的の涙が大理石の床に落ちた。






終わっとく




と、言うわけで、ハーマイオニー腐女子ネタですた。

花冠シリーズというか、多分このサイトではじめてのギャグかな・・・。

どうもギャグとかポップな話とかが苦手なので難産だったうえ、ちゃんとかけたかはわかりませんが・・・^^;

というか、黒い英雄様が苦手な方、申し訳ない。うちの英雄様はこんな感じです。

黒いです。リドル様とタメはるくらい黒いです。真っ黒です。

すこしでも皆様に笑っていただけたなら幸いです


07/07/21 翆