気付いたときにはすでに遅く

侵食されているのだ

その思考に、その概念に

ヒトは空洞の天に万能の存在が居ると、聞かされる

それを虚偽だと嗤うか 真実だと盲目になり祈るか

それはきっとそれぞれだろうが ヒトは 「神」と言う存在にどこかで侵食されているのだ

それを虚偽だと嗤おうが、真実だと祈ろうが・・・

結局は「神」と言う存在を知っているのだから





花冠
 -06-





マフィアの本拠地 といういささか危険な場所に招かれてから随分と月日が流れた。

開いた携帯、刻む時は07/02

もう、半年以上もこの屋敷では“”として世話になっていた。

することといえば、スラムに居たときと大差ない。

男に抱かれて、所望されれば歌を歌った。

否、変わったといえばかわったのだろう。

身体を投げ出す回数は格段に減り、抱かれる相手はたった一人になり、歌を歌う頻度は前に増した。

歌う回数が増えると共に、の歌もまた格段にレベルを上げた。


美しい旋律のバラードから、ハイテンポのロック、民謡、等々、はさまざまな曲をこの屋敷の主が求めれば歌った。


「わからないなぁ・・・」

「なにがだ?」

ぽつりとの言葉にアークが問い返す。

「んー・・・オレの歌のどこがいいんだろうって・・・いや、売り物にしといてアレだけど・・そんな価値のあるものには思えないんだよね・・」

歌詞だって、英語じゃないからわかんないでしょ?

そう、が歌う曲は殆ど「日本語」だ。

が好きなJ−POPと日本の童謡系統が主にの歌の8割がたのレパートリーで、残りの2割がクラシカルなドイツ語曲、流行の洋楽だった。

しかし好んでが歌うのは日本語の曲で、英語を言語とする「客」にそんなに魅力のあるものだとは思えなかった。

の言葉にアークは「ううん」と少し唸ると、言葉を選ぶようにその問いに答えた。

の歌う詩の意味は、確かにオレたちには分からないんだが・・それでも・・なにかな・・その声が・・どういうわけかココロに響くんだ」

「声?」

アークの答えには首をかしげた。

音でも、旋律でも、言葉でもなく、声・・・・

「声・・と言うのもちょっとちがうかもしれないな・・・声のない言葉と言うか・・言葉のない声というか・・・」

「・・・・よくわからない」

はあくまで自分の歌の受け手にはなれない。

アークの答えには眉間にしわを寄せて、もういいと、投げ出した。

売れるのらば、ソレでいいじゃないか。



投げ出した様子のにアークは苦笑を漏らす。

「君は・・全然子供らしくないな・・」

「・・・あんなところ(スラム)に居たらそうもなるさ・・・大体・・・・」

実際は見た目の11〜12ではなくて、17歳・・・・・

そこまで、頭の中で思って、は眼を見開いた。

「・・・?」

突然、言葉を止め、凍ったように身体を硬直させたにアークが怪訝そうに声をかける。

「・・・・・そうだよ・・・オレは・・・」

その言葉さえ、聞こえてないように、は聞こえていないかのように、何かに怯えるようにかすかに身体を震わせていた。

?」

もう一度、アークが声をかけ、の肩に手を触れた瞬間、は弾かれたように走った。

!!!!」

アークの声が聞こえたが、は構わずに走った。

自分に与えられた部屋に転がるように駆け込み、乱暴に扉を閉める。


「そうだ・・オレは17・・いや、去年の12月で18・・・そうだ・・そうだったじゃないか・・・」

半ば、自失したようにぶつぶつと吐き出す。

唐突に記憶は掘り起こされ、この姿に、11やそこらの少年に戻されたその日を思い出す。

「そう・・だから、オレは・・あの教会を・・」

はなれたくなかったんじゃないか・・・

全ての始まりのその場所にとどまれば、いつかは帰れるはかない希望にすがって。

なのに・・

「どうして・・こんな簡単に忘れて・・?」

まるで、塗りつぶされたかのように、今までソレを思い出すことがなかったのだ。

自分の年齢の事も、姿の事も


クロゼットを開けて扉の内側にある姿身に自分を映す。

月日と共に少し伸びた背丈、肩を超えるほどに伸びた少し色素の薄い黒髪。

蒼い眼・・・・・。

あおいい、め?


「・・なに・・これ・・」

鏡にこれ以上内ほどに顔を近づけて凝視する。

昨日までは間違いなく漆黒だったはずの瞳が、今は青く、蒼く染まっている。

「・・・・いやだ・・こんな・・きもちわるい・・・」


ふらふらと、後ずさって、そのまま背後にあったベットにボスンと座り込む。




混乱する意識の中で、改めて記憶の回想を試みてみても、なにか靄のようなものがかかったかのような、おぼろげで不安定な記憶しかだせない。


両親のカオとか、友人の顔とか・・どこかぼやけていて・・・


どんな生活をおくっていたのかさえも・・・おぼろげで・・・



目の奥が熱を持って、ぽろりと、あとから後から涙が溢れて視界がにじんだ。



あの、教会で目覚めた日から、まだ1年たっていないというのに、記憶があまりにもおぼろげ過ぎた。

年齢が、瞳の色が変化する事態に、あまりに非現実なその事態に混乱した。


どうして、どうしてどうして・・・


自分に何が起こっているのかわからなくて、混乱は涙という形になって溢れた。







「・・・だれか・・・・・」






たすけて とは、言わなかった、いえなかった。


















コツ コツ コツン



ガラス窓を何か硬いもので叩く音に、は涙にぬれた眼を窓に向けた。

バサリと、大きな羽を震わせて口に紙筒をくわえた茶色いフクロウ


「・・・なに・・?」


怪訝に思いながらも、のろのろとベットから立ち上がり窓を開けると、躊躇なくフクロウは部屋に入り、

の手にくわえていた紙筒を落とした。

落とされたソレは羊皮紙で、手紙のようだった。




「・・?」


グイと、涙をぬぐって丸められたソレを開く。


そして、眼を見開いた。






親愛なる さま

このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく編入入学を許可されましたことを、心より喜びもうしあげます。

なお、貴殿は9/1より、2学年への編入となりますので、1年生の予習を行ったほうがよいでしょう。

1年生の参考書資料、および2学年必要教科書を記したものを同封いたします。

新学期は9/1より開始です。7/31必着でふくろう便にてお返事お待ちしております。

敬具

副校長 ミネルバ=マクゴナガル





文面を、読み上げては一瞬息をする事も忘れて、そしてその場に座り込んだ。



「う・・そ・・・・」





この手紙の内容は多少ちがうものの、自分は知っていた。

知っていたのだ。





「ハリー・・ポッター・・・・」





17歳の自分が存在した世界の記憶で、急にクリアになったその「本」の内容の記憶。



自分にとってはただのファンタジー小説だった、その世界・・・・




「・・・ここでは・・現実(リアル)?」



自分にとってファンタジーであったはずのハリーポッターの物語。

それがココではリアルで・・・・


ハリー=ポッターそれが、の17の記憶との唯一のつながりのような気がして


ぐるぐると回る思考の中でそれでもは震える手で、机から筆記用具を引っ張り出して、便箋に「入校を希望します

と、完結に書き、書名をして入学・・正確には編入許可証を届けたふくろうにくわえさせた。



バサリとふくろうが舞う。


その影を見送っては力尽きたように意識を落とした。








たすけて

と、意識が落ちる直前に唇がかすかに刻んだ。



たすけて  



だれが、助けてくれるというんだろう。





結局ヒトは、何かを成し遂げるためには、自分が何かをするしかないというのに

神に祈る事さえも、救いにはならない。

神は何人も救わない。

なぜならこの天(ソラ)は空虚なのだ。

あまりにも、空洞なのだ。



ソレを、は知っていた。悲しすぎるほどに。


意識の奥、細胞単位でその事実を刻まれ、理解していた。





神など居ない と


next


やっとハリィ要素!!!!