花冠

ソレは万能であるとヒトはいう。

うそばかり

全ては虚実で固められた空想の代物だ



花冠
 -03-

「へぇ・・おどろいたなぁ・・・」


夜の冷えた空気と共にの背後に立った男は感嘆のような声を漏らすその言葉が英語でやはりココは海外なのだと、 は確信した。

男が笑みを浮かべながら一歩足を踏み出した。


ギィと軋んだ音を立てながら祭壇のほうへ、の元に歩み寄った。


「叫び声が聞こえたと思ったら・・こんなにきれいな子がいるなんて・ね?」


くすりと、笑いながら男はの顔をじっと見つめた。

台詞には眉間にしわを寄せ、そして思い出す。

(そういえば・・海外じゃあゲイはおおいし・・東洋人ってそういう対象にされやすいんだっけ・・。)

だからってショタコンかよ・・

と罵りながら、は男の好色そうな笑みと、そして質のいいスーツを見た。

そして、「ああ。そうか」妙な確信を得ると、は無邪気に笑った。


「おじさん、オレを買ってくれるの?」


するりと、簡単に出てきたことばに自身も少しおどろきながらも、無邪気に小首をかしげた。






いま、自分の手元にあるのは僅かな水と、食料。

一日だってもたないそれにすがりついたって、のたれ死ぬのは眼に見えている。

自分には不思議な力なんてないんだから・・・と、ふと自分が大いにはまっているシリーズの児童書を思い出した。

ああ、じぶんにも、「魔法」だなんていうチカラがあればいいのに・・・

は、らしくない非現実的な事を思い浮かべてそして自嘲した。

ありえない。

ここには、魔法も、奇跡も、アリはしない。

神だっていやしないのだ。

自分はただの無力な人間で、非力なただの子供


今はそんなことを考えている場合ではなく、現実的に、
今もっているものを売ったってわずかばかりの金にしかならない。

そんな金目のものなど、持ち合わせていないのだから。


ここにあるのは、僅かないち1日ももたない食料と、衣服、携帯、オーディオプレイヤー、ハンドタオル、充電機器。


そして、自分。




自分の身体、そのもの。




幸い自分の顔は母に似て少女めいているし、整っているとも思わないが、そんなに悪くもないと思う。

ましてココが海外ならば、他国出身の人間っていうのは可愛らしく見えるものなのだ。

自分の身体を売ればいいじゃないか。

一時、その一時だけプライドと、感情を売ればいいんだ。

生きるために。

生きるために。


「ねぇ、おじさん?どうする?買ってくれるの?」

もう一度、言えば、男は卑しい笑みを浮かべての身体を、木目の床に押し倒した。


「ねぇ、おじさん。オレ、お客をとるのはアナタがハジメテだから、奮発してよ?」


そう吐いて、空虚な眼で、見上げた先の十字架をぼんやりみつめた。














体の節々が痛い。


とくに下半身は自分のものでないかのように全く言う事を聞かなかった。

感情を殺すのは難しい事ではなかったけれども、それよりも引き裂かれる痛みに耐えるのが苦しかった。


犯された体制でほうって置かれたままのの耳元に、キレイにそろえられた少し分厚い札束。

それらはなじみの諭吉ではなく、改めてココが日本ではない事を思い知らされる。

震える手で、指でそれらの紙幣を数えれば、10万あった。






「く・・ふふふ・・・」


涙が後から後から溢れて、笑いも変にこみ上げてくる。


「あはは・・・」


は知った、理解した。

自分の身体が売れるということを。自分の身体に10万の価値があることを。

そして、自らの身体を売れば自分は生きて生けるということを。

不思議とこの10万で日本に帰ろうとは思わなかった。

こんな身体で帰って一体どうなるのだろうと、想像して自嘲した。



スゥと息を吸って、はその声帯を震わせて、旋律を奏でた。


変声期前のボーイソプラノは普段自分が歌っていた音域ではなかったけれど、構わずはうたった。



同じフレーズを繰り返し、くりかえし・・・・













それは、神を呪い冒涜する詩だった


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引き続き暗い・・・
06/05/31**翆