花冠

神なんていない。

結局何かを成し遂げるためには、自分の力を頼るしかないのだ。




花冠
 -02-



落ちているのか、それとも昇っているのか

わからない

浮遊しているのか、制止しているのか

わからない


視界ゼロの真っ暗闇



ふと、耳になじんだ女性ヴォーカリストの旋律が遠くに・・・







「・・・・・・」




スゥっとは瞼を持ち上げた。

最初に眼に映ったのは、古ぼけた木目模様の床。

どうやら自分は倒れているらしい。

ヘッドフォンは相変わらず音楽を奏でていた。

ゆっくりと、倒れた身体を起こして、視界に入った自分の手をみてギクリとした。

「な・・んだこれ・・」

パチパチと瞬きを繰り返し、自分の両手を眼前に広げる。


・・・・・17歳の男子の手にしてはあまりに頼りなく、小さすぎるその掌・・・

「うそだろ・・?」

声帯が紡ぐ自分の声も変声期前のように高い音域を紡ぎだしている。

は、弾かれたように立ち上がると、バタバタと鏡を・・自分の姿が映し出させるものを探した。

立ち上がった拍子に大きすぎるズボンが足から抜けたがそんなもの気にしていられなかった。

建物にある、数少ない扉を開け、二回へ続く階段をみつけてかけ上げる。

見つけた浴室と思わしき部屋の鏡に映る自分の姿を見ては総毛だった。

漆黒の眼をこれ異常ないほど見開いて、鏡の中の自分を食い入るように見つめる。

カタカタとかすかに震える手で、そっと自分の頬をなでた。

「うそ・・・だろ・・?」

先に行った言葉をもう一度口にする。

鏡の中に17歳の自分が記憶する姿はなかった。

茶色く染め上げた髪は生来の色である漆黒に戻り、身長も、目線も低い。

同じなのは家を出るときに来ていたシャツと、耳にしているヘッドフォンだけ。

姿は自分が小学生のときのものに戻ってしまっていた。


「おいおいおいおい!!!!まてよ!!!ありえねぇえ!!!冗談じゃねーぞ?!!」


自分を抱きしめるように両肩を抱いては叫び声を上げた。

「若返り?!んなのあるわけないだろ?!だいたい・・だいたいココはどこだよ?!!!!」


自分の姿を確認して、今更になって脳裏に浮かんだ疑問にパニックに陥った。

自分は路上で倒れたはずだ。

そして倒れたのは昼。携帯で確認していたから間違いない。

なのに、倒れていたのは室内で、窓から射す月光が時刻が夜であることを告げている。

「なんなんだよ?!なんなんだよ?!」

訳がわからず、その場に座り込む。

混乱のあまりいつの間にか両目からボロボロと涙が溢れてきていた。

ポタポタと木目の床に涙が落ちて染みを作っていく。


はスゥっと大きく息を吸い込み、思い切り、叫び声を上げた。

「あぁああああああああ!!!!!!」

ヘッドフォンから流れる曲などかき消す絶叫。

シンと静まり返った夜の空気にの叫びは澄んだ音を立てて響き、そして、やんだ



「・・・・・・・・はぁっ・・」


おちつけ、おちつけ、おちつけ・・!!!!!!


自分を抱きしめ必死には自分に言い聞かせる。

そして、もう一度、深く息を吸い込むと、フっと肩の力を抜いた。


「・・・とにかく・・状況確認しないと・・・」


意識して言葉にする。

でないと気が狂ってしまいそうだった。


はパタパタと最初に自分が倒れていた場所に戻る。

そして、キョロキョロと辺りを見回して、探していたものを発見した。

「あった・・!」

自分が倒れていた場所から数歩はなれたところに投げ出された大き目のカバン・・・

が母に言われてつめた自分の古着をつめたソレだ

ファスナーをあけ、中身を片っ端から出していく。

携帯、従弟にあげる(予定だった)古着、デジタルーディオプレイヤーの充電器、
携帯の充電器、500mlペットに半分ほど入ったお茶、チョコレート、ガム、ハンドタオル、ティッシュ

それから・・・

はそっと今まで流れていた音楽を停止ボタンを押して止め、ヘッドフォンを外す。

携帯、古着、デジタルーディオプレイヤーの充電器、
携帯の充電器、500mlペットに半分ほど入ったお茶、チョコレート、ガム、ハンドタオル、ティッシュ

そして、デジタルオーディオプレイヤー・・・

それらがが所持するものの全てだった。

出てきたものを床に並べて、ため息をつく。

「とりあえず食料は・・お茶と・・チョコか・・。従弟に上げようと思ってた服は・・オレがつかえるな・・」

そう吐いて、サイズの合わなくなってしまった自分の服を見て、すぐに眼をそらした。

あまり今の自分の姿を直視するとまた混乱しそうだった。

「とりあえず・・いま何時だ・・・?」

余計な事は考えなくていいように、わざわざ疑問を言って、は携帯を開く。

8/17(木) 15:05

記憶にある最後に確認した時刻は同日の14:45・・・・

日中であるはずなのに、ココは夜・・・

「もしかして・・日本じゃない?」

時差、と言うものなのだろうか

思いついて、改めて今自分が居る建物を見渡した。


所々割れたステンドグラス。

ところどころ壊れていたり、列を乱しているものもあるが整列されている長いす。

そして・・・・

は後ろを振り返った。

ソコにただずむ祭壇と十字架・・・。

もう少し視線を横にずらせば、古ぼけて音が出るかもわからないボロボロの小さなオルガン・・・


「教会だ・・・・」

自分が居るのは日本には少し珍しいかもしれない廃墟の教会

「なんで・・」

何度目かわからない疑問を口にして、はかぶりを振ると、自分の所持品をカバンの中につめこんで、長いすの下に押し込んだ。

まよったけれど、オーディオプレイヤーも。

ダイスキであるはずの音楽を聞く気になれなかった。

そして、もう一度ため息をついて、立ち上がり、祭壇の前に進み、佇む十字架を睨みあげる。

そして、また、座り込んだ。

明日からどうすればいいんだ。

自分の所持する食料は僅かな水とチョコレート

この廃墟の教会で雨露はしのげる。

服も何着かはある。でも、金はない。

どうすればいい?

日本に帰るにも金がなければ何もできない・・

孤児院は?

教会は?

どこにあるのかわからない。

ここがどこかすらわからないのに!

どうしよう

どうしよう

どうしよう

どうしよう


このままじゃ、自分はのたれ死ぬのは眼に見えている。

どうしよう

こわい こわい こわい


こんないきなり訳のわからないところに放り出されて、身体さえも意味の分からないことになって


夢ならいいのに。と思ったところでこれは現実で・・・


どうしよう。どうすればいい?



・・・・ギィと、いう軋んだ音には振り返った。

観音開きの木の扉が開いている。

そして、バタンと音がして、夜の冷えた空気と共に入ってきたのは長身の男だった。


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暗いなぁ・・・

06/05/31**翆