花冠
ダン!ダン!ダン!
リズムよく連続でなる銃声と、まるでお互いに引き寄せられているように、的の中心に穴を開ける弾丸。
柔らかな水のような優しい翡翠が、鋭利な刃物のような鋭さを持って正面を見据え、引き金をひく。
ダン!
また、的の真ん中に穴があいた。
花冠****/その術(すべ)
ダンっ!
と、遠くで破裂音のような音と、そして腕から身体全体に伝わる衝撃。
衝撃に、は見事に後ろにしりもちをつく。
「ってぇ〜〜・・・・・・」
耳に当てていたイヤーマフとつめていた耳栓を抜く。途端聞こえてくるくぐもった笑い声に、は眉をしかめて振り返った。
「・・・・・そんなに笑わなくてもいいじゃん。アークさん・・・・」
むすっとした拗ねた口調に、アークは笑いをかみ殺しながら「ごめん」とあやまった。
その様に、またはむっと顔をしかめると、床に手を着いて立ち上がる。
そして手の中の小さな銃に視線を降ろした。
思っていた通りにうまくいかないものだと、はため息をつく。
はぁという大きなため息に、アークは苦笑するとぽんとの肩に手を置いた。
「まぁ、最初はそんなものだよ、はまだ幼いし、身体も小さいからなぁ・・・。」
言って、壁際に在る装置を操作して、数メートル先に設置してある的を、手元に送らせると、穴があいたソレを見てフムと頷いた。
「撃った反動で、身体が後ろに飛ばされてるけど、照準は合ってきてるじゃないか。」
言って、とん、と穴があいた的を指で弾いた。
丸いダーツ用の的のようになっている的に空いている穴は、真ん中から離れてはいるが、ちゃんと円の中には入っている。
はじめは撃っても、円の中にすら入らなかったことを考えれば大きな進歩だと、アークは笑った。
「筋はいいよ、は。」
言って、乱暴にの頭をくしゃりと大きな掌で撫でた。
「そんなに焦らなくて、いいじゃないか。」
「・・・・・。」
言葉に、むすっとした顔で黙り込むに、アークは困ったような笑みをうかべる。
「何をそんなに焦ってるんだ?」
かがんで、の目線に自らの視線を合わせて、問う。
柔らかい翡翠が、いってごらん?と、優しくに言う。
「・・・・・・・。」
は眉根を寄せた。
どうして、なんて・・・・
「わかんねぇ・・・・」
ポツンと答えて、は眼を伏せる。
それに、アークは「そうか。」とわらって、くしゃりと、大きな掌での頭を撫でた。
掠める、硝煙の匂い。
いつもは優しくて柔らかな水のような翡翠が、鋭利な刃物のような鋭さを持って正面を見据え、引き金をひく姿を思い出す。
自分の頭を撫でる、こんなにも優しい掌。
なのに、血にぬれている掌。
そういう世界に住む人だから。
なんど、彼はその手で引き金を引く事で、人の命を奪ったのだろう。
優しい翡翠の色を見ると、は焦る。
はやく、彼と対等になりたいと。
対等に、扱ってほしいのだと、は願っている。
アークにとって、今のは小さく幼い、守るべきもの・・・保護対象。
そこから早く抜け出して、はアークと対等になりたかった。
「・・・・?」
そうしたら、本当の名前を、言える気がして。
「なんでもない。」
生きるために覚えた、笑みを貼り付けて、は言った。
その顔に、アークはまた苦笑する。
けれど、何も言わずに、もう一度、の頭を撫でた。
「あんまり、ムチャはするなよ。」
「うん。」
はやく、アナタと対等になりたい。
また、的に銃口を向け、引き金を引いた。
結局、アークが「今日はココまで。」と制止するまでしつこく的に銃口を向けたが、弾丸が的の中心を射ることはなかった。
「はぁ・・・。」
思わず、がため息をつく。
それに、カノンが気付いて「どうしたんだい?」と問いかけた。
「料理が気に入らなかったかい?」
カノンがの手元をみて、重ねて問う。
皿の上の料理は、殆ど減っていなかった。
それには慌てて首を振った。
「そんなことないです!」
言って、ナイフとフォークを手に取る。
目の前のおいしそうな食事が気に入らないはずがない。けれども、カノンに言われるまで今が食事中であったことを忘れていた。
慌てたように、食事を始めたの様子に、カノンがくすくすと笑った。
カノンのすぐ後ろ、一歩下がったところに立っているアークも、クスとその口元に笑みを浮かべていた。
なんだか恥ずかしくなって、はうっすらと赤面した。
「。」
優美な仕草でナイフとフォークを置いて、カノンが言葉を切り出した。
「銃は、自分の命を守る武器にも、相手の命を奪う武器にもなります。」
凛としたレンズ越しのグレーの眼がの漆黒を見据える。
「武器を手にするということは、それなりの覚悟がなければなりません。」
「・・・・。」
静かに語るカノンの言葉は、重みがあった。
それはきっとカノンの優美なその指先が、引き金を引いて人の命を奪った事があるからだ。
「力を求めるのは、構いません。けれど、焦ってはいけない。」
すぅと、カノンの眼が細められる。
「力を手にするということ・・・ソレがどういうことなのかを、慎重に考えなさい、。」
言葉の重さに、重圧に、は思わず唾を飲み込んだ。
カノンのグレーの眼は、まさにマフィアの首領を務めるものの、王者の眼。
仕草の優美さや、声の柔らかさからは想像もできないほどのプレッシャー。
ふっと、そのグレーが王者の色からのよく知るやわかな色に戻る。
「心配しなくても、アークも私も、振り返ってを見ていますから。」
追いつくのを、まっているから、ゆっくり歩けばいい。
そういって、カノンはにっこり笑った。
「・・・・・はい・・・・。」
すぅっと、胸に降りてくるカノンの言葉にはゆぅるりと眼を閉じて、頷いた。
見透かされていると、そう思った。
「、食後少ししたら唄を歌ってください。」
カノンが柔らかな口調でに言う、言葉にはふわりと笑った。
「はい、もちろん。」
答えて、カノンの後ろに視線を移す。
優しい翡翠も、柔らかな色を灯して、を見ていた。
はやく、アナタと対等な位置に立ちたい。
翡翠を見て、はそう願う。
(一歩、一歩、近づくから・・・・)
焦らずに、でも、できるだけ早く。
(だから。)
待ってて
次の日、の銃弾は、はじめて的の中心に穴を開けた。
fin
といわけで、おまたせしました・・!!!!
9000hitリク、アークと夢主の修行風景・・!!!
しゅ、修行シーン少ないような・・・・orz
リクにちゃんと添えてるか、すごくアレですが・・・紫苑さんに捧げます!
紫苑さん、リクエストありがとうございました!
07/06/28